書籍名:「吾が住み処

          ここより外になし」   

  著 者:石見 ヒサ

 発 行 :
萌文社
  私は 盛岡駅にあるS書店にときどき立ち寄ります。

そこでは、本屋の店員さんのおすすめの書籍が紹介文とともに

山積みにされています。「おっ!」と思わせるような目を引く

紹介文に出会うこともしばしばで、店員さんの視点の良さに感

心します。
       
   さわやかクリニック
   院長  浮田 昭彦 医師 

  そこで紹介されていたのが、石見ヒサ著「吾が住み処ここより外になし 〜田野畑村元開拓保

健婦のあゆみ〜」でした。紹介文には、「これを読めば岩手県に原発がない理由がわかります」と

あります。
 
 思わず買って読んでみると、素晴らしい内容でした。田野畑村の元保健婦の岩見さんがまとめた

自分史で、原稿をまとめて出版した時の年齢が92歳(2012年当時)。超高齢とは思えない、その文

章の清冽さ、深さにぐいぐい引き込まれます。

 若いころから短歌や詩に親しみ、何冊も歌集を発行しているような方ですから、言葉の鍛え方が

違うようです。大阪で生まれた岩見さんが、看護士・助産師となって困難な戦前・戦中を乗り越え

てきた歴史と、その後田野畑村に移住し開拓保健師(開拓地の保健師)として活動することになっ

た経緯が生き生きと描写されています。

 戦後岩手の開拓地の医療・保健衛生に関しての読み物としても興味深く、設備もまったくない状

態での無麻酔の帝王切開や、夫の吐血後、村人から輸血を受けるくだりは衝撃的です。そして何よ

り、開拓保健師としての活動の経験、姿勢に心を打たれます。山道を十数キロも歩いて指導に回り

、労多くして成果上がらずと悩みながらも、できるだけのことを誠心誠意実行することが重要で、

結果についてまで考えることは思い上がりなのだと悟り、粘り強く取り組む姿は、現代の医療・福

祉やまちづくりに取り組む人たちの手本ともいえるものです。

 そのように地域の人と共にあり、人生は詩だ、と(うた)って、田野畑の地域と自然をこよなく

愛した岩見さんが、原発立地の計画の運動に取り組んだのは当然の成り行きでした。

 私は1960年代から1980年代に岩手県に原発立地計画がもちあがり、強い反対運動もおこって、結

局計画が断念されたという歴史を全く知りませんでした。川久保病院の小野寺けい子先生と伊藤雅

天先生が、石見ヒサさんに会いに行かれたのは2013年頃のことです。当時96歳の岩見ヒサさんの話

を5時間以上も!聞いていたそうです。本当にエネルギッシュな話しぶりだったとか。

 岩見さんは2015年にお亡くなりになったそうです。草の根の偉人の心意気を多少なりとも手本と

できればと思う今日この頃です。