この作品は、父子二代に渡る大阪商人の生き様を描いた山崎豊子の出世作の一つです。徳島の田舎から出てきた少年が、丁稚からたたき上げて一人前の昆布商人として独り立ちし、厳しい商売の世界で名を成したものの、戦争でなにもかも失い、息子が後を引き継いで復興するまでを描いています。大阪船場の古い商人の世界に、とりわけつよい関心を寄せてきた山崎自身が「理想の大阪商人の姿を描いてみた」(あとがきより)と書いているように、そのバイタリティあふれる人物像は読むものを引き付けてやみません。

 僕にとって印象的だったのが、老舗の暖簾の復活にかける息子の想いです。「暖簾は商人の心のよりどころである。…しかし昔のように古い暖簾を掲げておれば、安易に手堅く商いできた時代は去った。…暖簾の信用と重みによって、人のできない苦労も…出来た人間だけが、暖簾を活かせていけるのだった」という想いから、「合理的な計画と緻密な判断の上にたって、あとの頑張りだけは原始的な丁稚精神でやる」というやり方で、戦災で焼けた昔の店に、古い暖簾を復活させるのです。
 
 私たちの勤める川久保病院は民医連という、無差別平等の旗を掲げる組織に属しています。民医連という「暖簾」の重みをどう感じ、発展させていけるのか、軽妙だがしぶとく、合理的だけど気持ちが込められている、そんな大阪商人的など根性が、やっぱりどこかに必要かな、と最近感じます。
 
 川久保病院内科浮田昭彦 
 

 

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