山形の「天保そば」を知っていますか。160年を経て芽を出したそばを原種として、酒田市の飛島を中心に栽培されているそばです。
 福島県のある旧家で、俵に厳重に保管されていたそばの実が見つかった。言い伝えによると、天保年間(1830 43年)東北をおそった大飢饉の際、備蓄されたものとか。農業試験場などで「発芽の可能性はない」とされた、そばの実を、山形のそば職人たちが、古来の知恵を駆使して育て上げ、生産をつづけている。
 主人公が当時の大飢饉に今度の大震災を重ねあわせながらの一言「子どもたちが飢え苦しむことがないように・・・未来に向けてそばの実を蒔いたのです」は、強く胸に迫ります。
 食とは命をつなぐもの、目先の損得に踊らされがちな今日だからこそ、本書で伝えようとすることが重く心に残りました。
 本書は、そばにまつわるうんちくと、その文化や歴史に常に立ち返っています。読めば無性にそばが食べたくなるので、要注意。あと一月あまり、今年も新そばの季節がめぐってきます。

(中居武史/川久保病院事務長室)